6. webカメラで作るツールスコープ

(2019/2/16掲載)

 レーザーを使った光学実験では、しばしば試料の上に照射されているレーザースポットの位置とかピントの合い方をチェックする必要がある。そのためには試料表面の拡大像が見たいので、動作距離(working distance)の長い顕微鏡(いわゆるツールスコープ)にCCDカメラを接続して使用するのが一般的であった。しかし、これは高価であるし、場所もとるので、筆者の研究室では、Webカメラとアクロマートレンズ1枚を組み合わせた簡便なものを使っている(図1、図2)。モニターにはタブレットPCを用いるとスペースの節約になる。
典型的な倍率1:1 動作距離 10cm 解像度~20μm

図1 webカメラを使ったツールスコープの試作例。ここに示すのは45度ツールスコープである。プリズム、レンズつきパイプをレンズを取り去ったwebカメラに金具で接続している。

材料:
3メガピクセル程度のwebカメラ、φ12mm肉厚2mmのステンレス管、アクロマートレンズ(φ10mm、シグマ光機DLB-10-50PM \6400など)、ステンレス管とカメラをつなぐための金具、ワッシャ、
L型の場合は、プリズム(7mm角、斜面にAl蒸着したもの、シグマ光機8000円位)。
参考のために、金属部分の設計図を図7に掲載する。

特徴: 
外径が標準的な光学用ロッドと同じφ12mmなので、市販のクロスクランプ等を用いて簡単に光学系に組み込むことができる。
webカメラの赤外カットフィルターを外しておけば、波長1μm程度の赤外光にも対応できる。先端に直角プリズムをとりつければ、L型配置も可能。
     
注意点: 
・レンズの開口径は大きいほど光量が稼げるし、解像度も上がるはずであるが、収差が大きくなって像がぼやけてしまうというデメリットもある。アクロマートレンズでもかなり収差が出る。両者のバランスからφ5~6mmくらいに制限してやるのがよい(図6) 。筆者は適当なサイズのワッシャーを瞬間接着剤で筒先に取り付けている(図5)。 
・アクロマートレンズは普通可視光を前提に設計されているので、800nm、1040nm、400nmなど可視領域外のレーザーを使う場合は、かなり焦点距離のずれが生じる。試料の照明にはレーザーの波長に近いLEDを用いるとよい。

ソフト:
画像の表示用ソフトとしては、カメラに付属していたものを使っているが、何を使ってもよい。
スポットの位置などを画面の上で記憶しておきたいことがある。以前は画面にビニールテープを貼り付けたり、マジックで印をつけていたが、この方式だと液晶画面のガラスの厚みがあるため視差が生じ、斜めから見たときに位置ずれを起こす。そこで便利なのが白板ソフト(フリー版) WBSoftFree13_4_8.zipである。透明モードにしておいてカメラ画像の上に重ねると、そこに自由に線を引くことができるので、スポット位置をクロスで記録しておくことができる。これなら原理的に視差は生じない。ただし、PCのシャットダウンや誤操作により消えてしまう恐れがあるので、長期間記録を残したい場合は、やはりビニールテープ方式を併用している。 )

図2 L型ツールスコープ。カメラの基板だけを取り出して接着すると全体がコンパクトになる。

図3 筒部分と、カメラ部分に分解した状態。

図4 (a)カメラの基板。中央の黒い部分にレンズがねじ込んであったが、これを外すと、(b)のようにCCDの受光面が現れる。

図5 口径制限のワッシャー。そこにプリズムを張り付けるとL型スコープになる。

図6 取得した画像の例。(a) ノギスの1mm間隔の目盛りを撮影したもの。CCDの全幅に5mm程度の領域が写っている。(b)口径制限せず8mm径で使用した場合。(c)ワッシャーを取り付けて口径を6mm程度に制限した場合。後者の方が解像度が上がっていることがわかる。 

図7 設計図。(a)ステンレス製のパイプ(肉厚2mm)の先端を段差加工する。長さは、レンズの焦点距離と倍率を考慮して決める。このパイプの左側にアクロマートレンズを取り付ける。レンズの再利用を考えるなら紙を巻いて押し込む。こだわらないなら、エポキシ系接着剤で軽く接着してもよい。
(b)はジュラルミン製である。右側は、カメラのサイズに合わせて加工する。ここもエポキシで接着するので、寸法は適当でよい。12φの穴を多少深めにしているのは、パイプの出し入れでピントの調節を可能にするためである。