11. 軸外し放物面鏡の勧め

(2020/6/10掲載)

<軸外し放物面鏡による集光光学系>
 軸外し放物面鏡を用いた光学系は、開口角が大きい光学系が組める(例:φ50、f=100)、色収差がない、球面収差がない、群速度分散がない、あらゆる波長で使用可能という利点があるため、テラヘルツ分光や超高速分光の実験系でよく用いられる(図1写真)。

図 1 放物面鏡対(テラヘルツ光学系に使用)

金属を旋盤加工して作られるため、切削キズが残っているとか、ガラス製の球面鏡に比べると格段に形状の精度が悪いといった欠点はあるが、単に光を集めるだけの目的であれば十分に使える。最近はThorlabsなどからリーズナブルな価格のものが供給されているので、大いに活用したいところである。しかし、光源と集光点の位置を、正確に放物面鏡の焦点に一致させなければならないので、アライメントが容易でなく、レンズ系ほど気楽には使えないという問題がある。2個の放物面鏡を使って光源像を集光点に転送する場合、それぞれの放物面鏡のx, y, zとφ、θの調整機構を使って最適化しようとすると、変数が10個にもなり収拾がつかなくなる(図2参照)。
 そこでお勧めしたいのが、あらかじめ2つの放物面鏡を対にして枠に固定してしまう方式である。機械工作精度を信頼できるなら、2つの放物面の軸は一致しているはずなので、4つのφ、θの調整は不要になる。具体的には図3に示したようなコの字型の取り付け金具を作りその内側に放物面鏡をネジで固定する。平行度は0.1mradのオーダーまで出しておくと安心である。
基本的に放物面対の位置は固定しておき、光源と集光点の位置をこれに合わせに行くという考え方でアライメントを行う。
 さらに、次に述べる手順により、光源側と集光側の調整を分離することができるので、迷うことなく、最適条件にたどり着くことができる。

図 2 放物面鏡対による集光光学系。

図 3 放物面鏡ホルダーを横からみたところ。 取り付け面は十分な精度で平行であることを前提とする。

<第1放物面鏡側の調整>
 まず、第2放物面鏡を取り外し、平面鏡に置き換える。このときの取りつけ精度は重要なので、平行度の保証されたマウントを用意しておく(1mradの狂いがあると問題になる)。光源(ファイバーの先端)を焦点付近に置き、ファイバーのモールド部分に映った平面鏡からの戻り光を見る。光源が正しく焦点位置にあれば戻り光はファイバー先端に戻って来て、ファイバーを逆流するので、戻り光は見えなくなるはずである。もし、像が大きければ、ファイバーホルダーのx方向を調整する。位置がずれている場合ば、y, zを調整する。この作業は逐次近似ではなく、決定論的なので短時間で終えることができるだろう。
 以上の調整により、光源は第1放物面の焦点に来たはずである。

図4 第2放物面鏡を平面鏡に置換した状態。

<第2放物面鏡側の調整>
 次に第2放物面を戻して図2の状態にすれば、ファイバーからの光は第2放物面の焦点位置に正しく集光されているはずであるから、その位置にターゲットを置く。ここではCCDカメラなどを用いて像が最小になるように距離だけを調整すればよい。これでアライメントは終了である。
 平面鏡に置き換える作業は頻繁にはやりたくないので、焦点位置は、モニター上に印をつけるなどして記憶しておくと良い。
参考のために、テラヘルツTDS光学系のために製作した放物面鏡対ホルダーの設計図を載せる(放物面鏡はJanos)。重要なのは2枚の側板の平行度なので、位置合わせのピンは省略してもよいかもしれない。

図5 放物面鏡対ホルダー 設計図