12 カロリメータによる吸収率の測定

    (2021/7/12掲載)

<動機>
 発光の量子効率を議論するためには、試料に吸収された光子の数と発光で放出された光子の数の比を求める必要がある。そこで試料に実際に吸収された励起レーザーのエネルギーを簡単に求める方法が欲しかった。
                             
図 1 カロリメータ (a)全景 (b)蓋を外したところ

図 2 (a)試料台(5mm角) (b)サーミスタ 

<不透明体の光吸収率の測定> 
光を透過してくれる試料の吸収率は、分光光度計を用いて測定することができる。一方、粉体、セラミックス、金属など不透明なものの場合は、積分球を使って拡散反射率Rを測定し、吸収=1-Rを使って吸収率を算出するのが一般的である。ところが、市販の装置ではかなり大面積の試料(可視近赤外で10mm角、中赤外では25mm角)が必要になる。また赤外(2.5μm以上)では装置そのものが極く限られた研究施設にしかない。

<熱量測定>
  図1のようにカロリメータは食品用のプラスティックケースに収められている。これは空調の風などによる温度揺らぎを抑えるためであるが、まだ不十分であり、しばしば室温の変動が測定限界を決めてしまう。蓋の中央にはレーザー光導入のための穴が開いている。レーザー光は真上から照射する。試料台は5mm角の銅板で、この裏側にサーミスタ(104NT-4-R025H42G)が接着されている。試料台は熱の流失を減らすために細い針金で支えられているが、4本のワイヤにうち、2本はサーミスタの足で、アルミフレームからは接着剤を介し絶縁されており、外側に見える赤と緑の端子に接続されている。この端子間の抵抗値をデジタルマルチメータで計測する。

<測定例>
図 3 測定例(サンドブラスト加工したTi) (a)抵抗値 (b)温度

試料: つや消し表面の金属板 5mm角
光源: 1.03 μm 20mW レーザー

試料は、試料台の上に乗せるだけである。熱接触のためにグリースを塗ったこともあるが、結果は変わらないので、この測定では何も塗っていない。光を当てると5℃程度温度が上昇し、2~3分で安定する。
試料の厚みは0.1~0.2mmくらいがよい。あまり厚いと温度が均一になるまでに時間がかかってしまう。
これを「完全」吸収体を置いた場合の上昇温度と比較することにより、吸収率が求められる。表面を黒化したアルミ箔は可視~赤外(4μm)でほぼフラットな95%程度の吸収率を持つと考えられるので、標準として用いている。
 温度上昇幅が大きいと吸収熱量と温度が比例しなくなるので、20mW程度が上限である。測定限界は、室温の変動によるドリフトで制限されることが多いので、これに打ち勝つためにレーザーパワーは2mW以上あったほうがよい。